私の花図鑑     花の里日記   2001.4.19
                 木曜日 ( 猟人日記 )


   あれは昨年の秋半ばの時であった。かねて約束した通り、朝の10時ごろに村のAさんと2回目のキノコ(香茸)取りに出かけた。
一回目はぜんぜん収穫がなかったので今回は二人とも本気を出してでかけたのだ。薄暗い谷の小道をあがりかけると、もう下ってくる人たちがいる。手には収穫物を持っていない。お互いに情報交換し彼らは熊よけの線香をもういらないからと呉れて帰っていった。
こちらは以前収穫したシロがわかっているので、その谷筋めがけて一直線だ。急な斜面を落ちそうになりながら、探し探し登って行く。見覚えのある地形である。Aさんがまず見つけた。今年最初の香茸である。
近くにもう何本かあり、付近を見回しているとあったあった。株の下に2本大きいのがあるではないか。香を聞き、おもむろに背中に用意した袋に入れる。形がこわれるといけないし又両手が使えるからだ。
今日の目的はもう果たしてしまったが他の場所にも行って見ることにする。
谷をいったんおりて又違う尾根に向う。そこで別の降りてきた人に出くわした。
1人だけで探していたらしい。やはり収穫していないようだ。山のプロになると、どこで取れたとか今そこで探した等と言うような事は決して言わない。お互いに虚虚実実の話をして別れる。これは海釣の船頭さんの話にも似た所がある。自分の釣れる場所は決して他人に教えないのだ。
プロ中のプロだ。
 尾根に向かい登って行く。こちらも急な斜面だ。途中にはシャカシメジやホテイシメジ、ハツタケ、アブラシメジ、ムラサキシメジ等がある。しかし本命の香茸に合わない。頂上に出てしまった。Aさんは山では足が速い。軽々と登って行く。

 昼近くになるので頂上の三角点で食事を取る事にした。ここは東と北は刈り込まれた谷で見通しが良く涼しい風が吹き上がってくる。食事をしながらAさんから若い時の話を聞く。戦後食料難で猟銃をもって山で狩をした事など。主に冬でウサギ等の動物がたくさん取れた事。冬の凍結した雪の原は歩くのが簡単で何処へでもいけるとか、山をまちがつてよその里の家に泊まらせてもらった等、又木を出す索道を使い滑って谷まで降りた等面白い話を聞いて楽しく昼食をすませた。

 今この事を思い返してみると、とある記憶がよみがえってきた。

 私は中学生の時、ツルゲーネフの猟人日記を読んで感動したものだった。あれはベージンの荒野だったか、うら覚えだがロシアの地主(主役)が狩に出かけ野宿をする事になった。そのベージンの荒野の夜、焚き火のそばで、同行した案内人の子供たちが話すのを聞くともなしに聞いていた。その話では、荒野の近くに沼があり、とある子供が暗い夜にそこを通りかかると彼を呼ぶ声が沼からする。その声を聞いた子供は翌年死んでしまった。続きがあるがこのような話だった。

 猟人は野山をさまよう。自然と共に生きており又生命を奪う事の悲哀も感じる。生きる事の意味も自然から教えられる。

    関連でその時頂上付近にあった毒キノコ(月夜茸)

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